2017年の女性向けスマホ漫画広告を振り返る(後篇)
さて、後篇です。もうしばらくお付き合いください。前篇はこちら↓
※配慮はしていますが性的な画像や表現が含まれるため、今回も15歳未満&苦手な方の閲覧はご遠慮ください。
前篇では「女性も楽しめるメンズコミック」の大ヒットにフォーカスしましたが、実はそれと並行して進んでいた、もう一つの「エロのジェンダーレス化」とも言える流れがありました。
「女体化」作品の中ヒット
TLともBLとも言える不思議なジャンル
そう、「女体化」です。こちらの作品を中心に、大ヒットまではいきませんが中〜小ヒットを飛ばしていたと思われるものがいくつかありました。
↑女体化の呪いを受けてしまった男の子が主人公の『女体化した僕を騎士さまたちがねらってます ー男に戻る為には抱かれるしかありません!ー』
女体化というのは複雑なジャンルで、「中身(心)が男である」という点に着目すればBLだし(二次創作の場合はこの解釈でほぼBLに分類されますね)、あくまでも肉体面のみに着目すればTLだし、もちろん描き方によっては男性向けにもなり得る。
特にこの作品の場合は難しくて、めちゃコミ・RentaではTL分類ですが、コミックシーモアではBL分類だったりします。なぜかというと…
なんと、男の姿に戻ってもまた襲われちゃって…というBL展開があるからです(というかストーリー的にはむしろBLがメイン)。地雷な人にはめちゃくちゃ地雷だと思いますが、どっちも好きな人には一粒で二度美味しいという欲ばりな構成。これも非常に貪欲な作品です。
TLとしての女体化モノは他にも見かけました。
↑囚われの騎士が女の体に!?『狂王子の歪な囚愛~女体化騎士の十月十日~』
前篇、そして昨年の記事でも触れたような「BLっぽいTL」の流行に留まらず、もはや「TLとしてもBLとしても楽しめる作品」が売れ始めている。
BL好き人口が増えて一般的な趣味の一つになりつつある(TL読者層と重なってきている)のも一因でしょうし、「女らしくない主人公」を希求していった結果「中身が男で肉体だけ女」でも構わない、という所に辿り着いたのかもしれません。
前篇で扱ったTL⇔男性向けの融合もそうですが、やはりジャンルの境目が年々曖昧になってきているのを感じます。
2017年・その他のヒット作&注目作
さて、その他にも目立っていたものをいくつかピックアップしていきます。
↑失恋続きのOLがお見合いをしてみたら、相手はかつて自分をいじめていた同級生で…!?『イジメラレ体質~お見合い相手の太い指でイ…ク…~』
こちらも大ヒットでした。かつて自分を(好意ゆえ)いじめていた男子と再会して…というTLとしては結構オーソドックスな設定。
昔の仕返しをしてやる!と好意がある振りで騙してみたけど、それがバレてお仕置きされ…と、「相手を受け入れざるをえないエクスキューズ」もバナー内でしっかり描かれています。絵柄も美麗ですし、納得のヒット。
↑無実の罪で収監されてしまった主人公の前に現れたのは、冷酷なイケメン看守だった!『「このままじゃ…イク…」看守の執拗な身体検査』
出ました、"看守"ものです。こちらはバナー自体は2016年からそこそこ出ており中ヒットで終わるかと思っていたのですが、2017年、一気にまくってきましたね!
「女が一人しかいない刑務所に放り込まれ、イケメン看守に様々な“刑罰”を執行される」という、リアリティ?すっこんでろ!と言わんばかりの潔い設定。絵柄も含め、どことなく90年代〜00年代前半のTLを彷彿とさせます。
これも「自分は何も悪くないけど刑罰なんだから受けなきゃしょうがない」というエクスキューズが明確です。そのための舞台設定と言ってもいい。
↑紳士的なフランス人上司を挑発したら…『今夜、NOとは言わせない…外国人上司のケモノな本性』
これも斬新でした、“フランス人上司”ものです。上司属性は鉄板ですが、国籍で新しさを出してくるとは…。物珍しさで結構クリックされたはず。
かなりステレオタイプな描写っぽいのと、タイトルや広告で「外国人」と煽りまくっているのは個人的にウ〜ンという感じですが…。ちゃんと読めてないので深い言及は控えます。
↑彼氏いない歴3年のOLがエリート後輩の教育係に…『長谷川くんのが大きくて入りません!?身長差40センチの絶倫彼氏』
これはかなり最近目にするようになったのですが、さすがにインパクトが強かった…。
「海外支社帰りだからサイズも海外仕様」というロジックが全く分かりませんが(海外仕様って何だ…?)、なんというか、有無を言わせぬ気迫を感じます。二度見させる威力はある。
なぜエクスキューズ(言い訳)が欲しいのか?
ところで、昨年から女性向けにおける「受け入れちゃっても仕方ない、というエクスキューズ」について言及してきましたが、そもそもなぜこれがそんなに重要なのか(現実なら問答無用でNG or 犯罪な設定が多いのは言うまでもないと思いますが)。
理由は本当に色々あるでしょうしここで深掘りするつもりもないですが、「女性はみんな強引に迫られたいんだ」と解釈されると困るので、私個人の意見を少し書いておこうと思います。
現状、男女間で性行為に及ぼうとした際に、やはり女性側が背負うリスクってめちゃくちゃ大きいんですよね(男性側がノーリスクだということではないです)。
腕力の差も歴然だし、相手が急に暴力的になる可能性もゼロではない。自分より強い相手と密室に二人きり(大抵は)、しかも裸で対峙する以上、極端な話いつ命を奪われてもおかしくないわけです。
加えて、もしも本意でない妊娠をしてしまったら?もし内緒で写真を撮られたら?「簡単にできる女なんだ」って幻滅されたり言いふらされたらどうする?
もちろん現実では「この人はそんなことしない」と信じられる相手を選ぶんですが(意識的であれ無意識であれ多くの女性がそうしているはず)、この「決断」は実はかなりパワーを使うんですよね。傷付くリスクも含めて覚悟を決めることなので。
だから、せめてフィクションの世界で性を楽しむ時くらい、「考えたくない」面があると思うのです。決断のパワーを使いたくない。何も考えず相手を受け入れてもおかしくないような理由や背景を用意しておいてほしい。「自分は悪くない」ことを保証されていたい。*1 少なくとも私の場合は、ですが。
もちろん男性にもこの手の葛藤はあって、それがフィクションに反映されている面もあるでしょう。どちらがより大変、という話ではなく理解し合いたいですし、そもそも「年齢制限のない性的コンテンツがこういった一方的な描写に偏ることの是非」という論点もある*2ので、個人的にも考え続けていきたい所です。
TL主人公の年齢層を調べてみた
主人公はどんどん"大人"になっている?
さて、こんな感じで2017年のトレンドを振り返っていく中で、ふと気付いたことがありました。
「…なんか『会社員もの』とか『アラサーもの』が増えてない?」
↑で取り上げた一部もそうですが、オフィスラブ系作品の存在感が増しているような気がしたんですよね。主人公(ヒロイン)の年齢が上がってきているような気もする。いや、これは単に私がその年齢層になったからか…?
というわけで、気になったのでちょっとだけ調べてみました。
毎年発表されているめちゃコミックの年間人気ランキングをもとに、TLジャンルにおける直近4年間のトップ15作品を抽出し、主人公の年齢層を確認*3しました。実際に読まないと分からないケースが多いので、これ地味に大変でした…。
こちらがその結果。
やはり、明確に「社会人」と分かる(=働いている描写がある)主人公が増えているように見える。特に、作品内で年齢まではっきりと言及されている「25~29歳の社会人」ものが2016年から急増しているのです。その結果として、平均年齢も2016年から目に見えて上がっています。少ないデータなのであくまで参考ですが。
いわゆる"TL第一世代"(90年代後半のTL黎明期からこの文化に触れてきた層:私もここです)は、現在30歳前後〜30代半ばだと思われます。この層&この少し下の世代が今もメイン読者層である(もしくは最近戻ってきた?)とすれば、アラサーものの人気も不思議ではない。
課題があるとすれば、この層の次なる受け皿をどうするか、でしょうか(TLを見てきた世代なので従来型のレディコミには違和感があり、移行しづらそう)。スマホの普及で若い読者も流入する中、年齢層の多様化にどう対応していくか。「30代が主人公のTL」が人気を博す未来もありうるのか?
とにかく動きが早く柔軟なジャンルであることは確かなので、引き続き見守っていきたいと思います。
最後に
…と、昨年のトレンドをざっと振り返ってきましたが、2017年もかなり大きな動きが見られた面白い年だったと思います。
女性向けと男性向けの境目がより一層曖昧になり、BL等との融和も加速しつつあるように見えるわけですが、この先はどうなっていくのか。「よりジャンル間の垣根が無くなり、全方位対応型コンテンツが増えるのでは」というのが個人的な仮説ですが、果たして本当にそうなのか。何らかの形で揺り戻しがくるのか。
すっかり大人になった"TL第一~第二世代"の需要に応え続けられるのかも含め、2018年も引き続きゆるく観測していきたいと思います。
最後に、この記事を書くにあたってのリサーチ中(BL関連で色々検索していた時)にたまたま目に入った広告をご紹介しておきます。
ボーイズラブならぬボーズラブ……まさか、あの坊主ラブのことか……!?
↑2017年も息長く売れ続けていた"ボーズラブ"
ありがとうございました。良い一年になりますよう。