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自意識ドットコム

ポップカルチャーと自意識とその時好きなものの話

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2016年の女性向けスマホ漫画広告を振り返る(後篇)

【Amazon.co.jp限定】漫画家とヤクザ 1【描き下ろし漫画ペーパー付】 (ラブコフレコミックス)

前篇をアップした後、非常に沢山の反響・感想を頂いて驚いています。ありがとうございます。めちゃくちゃ緊張しています。

さて、ここからは上半期のその他のヒット&下半期のトレンドに移ります。

※全年齢仕様のつもりですが、前回同様、性的表現があるバナーをバンバン貼ります。苦手な方&未成年の方はご注意を!

上半期:「オネエ」以外の目立った動き

「ヤンキー(アウトロー)×オタク」人気の萌芽

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腐女子の前に現れた金髪ヤンキーは、超イケメンボイスの持ち主だった!「その喘ぎ声、ひとりじめ~腐女子がモテていいんですか?~」

"イケボ(イケメンボイス)"のヤンキー×腐女子という新鮮な設定。一時期そこそこ見かけましたね。

TLに限らず、2016年の女性向けコンテンツはヤンキーやヤクザといった「アウトロー」物の当たり年でした(映画がヒットした「HiGH&LOW」、BLの話題作「コオリオニ」など)。

「イケボ」「腐女子」というワードを押し出しているのも非常に2016年っぽい。オタク文化やBL趣味がもはやマイノリティでなくなったことを実感させられます。

このプチヒットが、TLにおける「アウトロー×オタク」の流れ(後で触れます)を作った面もあるかもしれません。

「一見、男性向けっぽいTL」の登場

前篇で「男性向けと女性向けの見分け方」について書きましたが、実はこの辺りの時期から「あれ、これはどっちだろう…?」と一瞬判断に迷うバナーが増えてきました。

というのも、男性向けで"定番"とされるシチュエーションを女性向けに改変したようなものが増えてきたからです。

例えばこれ。

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「人里離れた村で、現地民の謎の風習に巻き込まれて…!?」という、圧倒的に男性向けでよく見るシチュエーション。

しかし「不老長寿の秘薬を持つ、若い美男だらけの村」という辺りで、女性向け要素が担保されている。村というよりホストクラブですね。

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▲同じ「村モノ」でも典型的男性向けだとこうなる。狐面や天狗面はマスト。

 これ↓も一見しただけではちょっと迷います。

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男性社員を癒すためのH要員として雇われ…という現実なら大炎上必至のトンデモ設定ですが、男性向けでは定番。(一昔前の男性向けコミックやAVに多かったのでは?)

しかし社員がイケメンだらけ&(上のバナーのみでは分かりませんが)上司との恋愛要素もあり、女性向けにアレンジされています。

 

「女性向けエロはストーリー&関係性重視!」というのが原則でしたが、その原則から少し外れた、より欲望に忠実な、いわば"男性向けっぽい"作品群の台頭。この辺りのトレンドが、下半期の大きな流れにも繋がっていきます。

さて、ではいよいよ下半期へ。

 

下半期:「BLっぽいTL」⇔「男女両用エロ」に二極化

2016年の女性向けエロにおいては、ジェンダーの混沌化」が最大のキーワードだったように思います。上半期のオネエブームはもちろんですが、下半期はさらにその傾向が強まっていきます。

  • ①「女らしさ」からの解放願望:「(自分に足りない女らしさを補ってくれる)オネエへの渇望」から「主人公が女っぽくない、"BLっぽい"TL」へ
  • ②エロのジェンダーレス化:「男性向けっぽいTL」から「男女どちらでも読めるエロ」へ

まずは①について。

①「女らしさ」からの解放願望:BLっぽいTL、「漫画家とヤクザ」が大ヒット

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読み手がさすがにオネエにも飽きてきた夏頃、彗星のごとく現れて人気を掻っ攫っていったのがこの作品。処女でオタクで女らしさの欠片もないBL漫画家と、見た目はオラオラだけど優しいヤクザが恋に落ちる「漫画家とヤクザ」です。

他に目立つヒットが少なかったこともあり、ほぼ一強状態。あまりにもよく見かけるので、作品を一切読んでいないのに

「処女の漫画家・累は、八代という男の借金600万円を突然肩代わりさせられる。取り立てに来たヤクザ(吾妻)に返済を待ってもらう代わりに処女を要求され、関係を持つことに。2人は徐々に惹かれ合っていくが、他の男といた累に吾妻が嫉妬したり、消息不明だった八代が現れたり、他の女とホテルに入る吾妻を目撃してしまったりとトラブル続きで…?」

という粒度までストーリーを把握できてしまったほどです。(この記事を書くにあたり初めて読みましたがこの通りでした)

そもそも、この手の広告で「登場人物の名前」が前面に出ていること自体が異例。

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▲ヒットが一周した頃の広告。「ヤクザ」でなく「吾妻」、「漫画家」でなく「累」と表記されている

これは「この2人が漫画家とヤクザであることも、基本的な関係性もターゲットの大部分にはもう伝わっているだろう」という前提に立たないと作れないバナーです。

「皆さんご存知、あの2人ですよ!あの2人の仲が進展しますよ!」というスタンスなわけです。

まあとにかくそのレベルのヒットでしたし、今も売れ続けています。

 

このヒット、一見すると「オネエからの反動でオラオラ系に回帰したんだなー」とか「目を引く"言い訳"設定(知人の借金返済)が巧みだなー」で片付けてしまいそうなのですが(勿論それもありますが)、それだけではなさそうです。

まず、上半期で芽生えつつあった「アウトロー×オタク」の流れをキッチリ汲んでいる。主人公はBL漫画家で、こちらも"腐女子"設定です。オタクや腐女子に感情移入できる(したい)女子が増えている。

さらに、貼っているバナー群からも分かると思いますが、「エロ」というより「胸キュン」訴求が非常に強い。

恋や愛が分からない不器用な2人が「契約」のもとに一緒にいることになったけど、心の距離はなかなか縮まらず…という展開(もう24話まで進んでいるのにまだ互いに恋愛感情を自覚できておらず、「好き」「愛してる」の一言もない!)は、どことなく「逃げ恥」っぽさも。

2016年、TL界の"ムズキュン"需要を一手に引き受けていたのはこの作品でした。

 

そして何より上でも書いたように、この作品、ちょっと「BLっぽい」んですよね。

バナーによっては「えっこれTLなの?BLかと思った!」と言う人もいるくらい、主人公が徹底的に「女っぽくない」描かれ方なんです。

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▲TLの主人公としては異例なレベルの痩せ型(作品内でも言及あり)

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▲ライバルは過剰なまでにグラマー。主人公の短い前髪もハッキリ描かれない睫毛も、身なりに構っていないことを示す記号

そして、その「女っぽくなさ」こそが、派手でグラマーな美女たちに慣れ切ったヤクザを惹きつけていく…という設定。

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 ▲「他の女と違って初々しく、"女臭くない"こと」が魅力、というのがバナーでも作品内でも繰り返し言及される

元々、「他の女とは違う(普通の女じゃない)ことで愛される私」というのは少女漫画の王道ではあります。ヒーローに対して強気だったり媚びなかったり、あるいは天然でドジだったりする主人公が「お前、面白い女だな…」と見初められていく。

分かりやすい女らしさや美しさ・可愛さでトップを獲るのは至難の業ですから、そうじゃない部分で評価されたいし愛されたいわけです。

ただTLにおいては絵面のエロさも重要なので、ここまでボーイッシュなキャラ造形の主人公は人気が出にくいはずだった。

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▲前篇で触れた2015年の大ヒット、「僧侶」のヒロインは分かりやすく女性的。「漫画家とヤクザ」との違いは歴然

ついにTLジャンルまでもが、「全く女らしくない主人公」を中心に回り始めた。

「漫画家とヤクザ」の作者、コダ先生は昔BLで創作活動をされていたそうです(ご本人のTwitterにて言及あり)。あっさりした画風もBLで培われたものでしょうか。

 

前篇でオネエブームを紹介した際、「ゲイだけど主人公のことだけは好き、というのはBLにおける王道である『男が好きなんじゃない、お前が好きなんだ』論法と同じでは?」とのコメントを複数頂きました。

BL論は荒れやすいのでどこまで触れるか迷ったのですが、全くその通りだと思います。

私を含む一部の腐女子(あくまで一部です)は、これまで「女性性の呪縛から逃げたい、性別でなく自分自身を見てほしい」という願望をBLの「俺は男が好きなんじゃない、お前が好きなんだ」展開を楽しむことで昇華してきた面があるわけですが、その文法がついにTLにも本格的に持ち込まれ始めた。

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▲前篇で紹介した「女装男子」系の別バナー。相手が女装男子だからこそ「男っぽい私」を評価してくれる

BLの「男が好きなんじゃない、お前が好きなんだ」も、オネエの「ゲイだけど貴女だけは好き」も、女装男子の「男っぽいお前が好きなんだ」も、漫画家とヤクザの「女っぽくないアイツが気になる」も、根底にあるニーズは同じなのかもしれません。

「女らしさ(性別)じゃなくて、私らしさを愛してほしい」

 

さらに、「オネエ失格」と「漫画家とヤクザ」の隠れた共通点として「仕事で疲れた主人公に、相手役男性が食事を提供してくれるシーンがある」のも興味深い。(同居しているオネエは美味しい手料理を振る舞ってくれ、ヤクザは料理を一切しない主人公のために毎日お弁当を買ってきてくれる)

仕事と家事の両立に苦しんでいる女性たちの葛藤(あるいはその姿を見ている若い世代の不安)が反映されているように感じます。これも「(旧来的な)女らしさ」からの解放願望でしょうか。

男性の方から「男性向けエロでも、女体化や"おねショタ"の増加を感じる」というコメントも頂きました。男性向けでも「男らしさからの解放」がテーマになりつつあるのかもしれません。

 

そして、この流れと並行して進んでいたように見えるのがこちら。

②エロのジェンダーレス化:「男女どちらでも読めるエロ」の台頭

ここまで紹介してきた女性向けバナーについて「全部初めて見た!」という男性の方も、この広告には見覚えがあるんじゃないでしょうか。

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▲"神の子"と呼ばれる謎の美少年の子どもを産めば大金が手に入る。お金に困った3人の女性は…「孕みの契約」

実はこれ、(私の観測範囲内では)女性ユーザー向けにもかなり頻繁にPRされていました。

フルカラーであり、女性が複数出てくることから一見すると男性向けに見えます(配信サイトでの分類も「メンズコミック」となっています)。

しかし交わる相手が美少年(しかも神の子)であること、「お金のため」という"言い訳"が明記されていることから女性の興味も惹いた様子。レビューを見ると「悠くん(※少年)かわいい!」「3人の中ではこの子とくっついてほしい!」など女性ファンが目立ちます。

今回、中身も確認してみましたが、バナーから受ける印象より遙かにほのぼのとした内容でした。毎回ギャグテイストの「おまけ」小話が付いていたり、女子3人が仲良く女子会していたりと、男性向け/女性向けのカテゴリでは括りきれないものを感じます。

その一方でエロいシーンはフルカラーでしっかりエロく、まさに"男女両用"型。

 

また、これ↓も、(「神の子」には到底及びませんが)秋~冬にかけて目にしたうちの一つ。

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「姉の婚約者に執拗に狙われ、襲われて…」というものなのですが、ハッピーエンドが見込みにくい鬼畜な設定に過激なエロ(本当はもっと色々なパターンのバナーがあるのですがエロ過ぎるので貼るのをやめました)。分類は当然メンズコミックです。

しかし相手はイケメンですし、女性向けっぽい要素を端々に感じる。「エロい!」とレビューを寄せているのも半分以上は女性のようです。これも今回読んで確認しましたが、女性目線の丁寧な心理描写+男性も満足できる激しいエロが共存していました。

 

勿論、過去にもこういった「男女問わず読めるエロ」はあったと思いますが、その中から目立ったヒットが生まれ始めているのは印象的です。

 

下半期:その他のヒット作

大筋としては以上なのですが、「流れの中では触れられなかったけどヒットしていたと思われる作品」にも触れておきます。

「漫画家とヤクザ」の陰で目立ちませんでしたが、下半期のヒット作の一つ「制服プレイ~変態教師は私の伯父~」。一昨年ブームを巻き起こした"叔父"が変態教師になって帰ってきた!

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▲なぜかバナー上では「イトコ」になっていたり。どっちなんだ?

あと、個人的にどうしても生理的に無理なバナーなのでここには貼りませんが(すみません)、主に男性向けで「ホラー×エロ」ものが大流行したのも印象的です。八尺様などの怪談にエログロ要素を加えたものですね。上の「神の子(孕みの契約)」も元々はホラー系の流行に乗ってPRされていたように思います、全く怖くなかったですが。

クリック率を上げる(「これ何!?」と思わせる)ためにどんどん刺激を強めていく中で生まれたアイデアなんだと思いますが、ホラー・グロ・虐待などのショッキングなコンテンツが人目を惹くのは当然ですし、それらとエロを掛け合わせればそれは注目を集めるでしょう。

業界全体で刺激のチキンレースをやっても仕方ないので、スマホ広告の倫理&ゾーニングについては(勿論エロも含めて)本当に考え直すべきタイミングに来ていると思います。

 

最後に

というわけで、非常に長くなってしまいましたが、2016年の女性向けエロ漫画広告トレンドの振り返りは以上です。

上で「キーワードはジェンダーの混沌化」と書きましたが、TLがBLに近づいてみたり、一方でGL(百合)っぽくなってみたり、女性向けと男性向けの境目も分かりにくくなってきたりと、非常に複雑な1年でした。

ひょっとしたら数年後には、「男性向け」「女性向け」なんてカテゴライズそのものが無意味になっているのかもしれません。そんな未来も楽しみですね。

 

それでは最後に、私の昨年一番のお気に入りである、「ダラダラしながらチヤホヤされたい」という人間の欲望に忠実すぎるTLバナーを貼って終わりたいと思います。

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「大事に使っていた布団とコタツがイケメン付喪神に!?」……最高かよ!!!

ありがとうございました。