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2018年の女性向けスマホ漫画広告を振り返る

指先から本気の熱情~チャラ男消防士はまっすぐな目で私を抱いた~ (Clair TL comics)

新年もとうに明けてしまいましたね。滅多に更新しないブログですが、今年もよろしくお願いします(noteもたま〜に更新しています)。

さて、一昨年、昨年と続けてきたスマホ向けエロ広告バナーの傾向・流行の振り返りですが、一応今年も簡単にやっておこうかと思います。

一昨年&昨年の記事はこちら↓

 今年は仕事が急に忙しくなってしまったこともありスクショ枚数も少なく(とはいえ500枚位にはなりましたが)、時間的余裕もあまり無いため、簡易版になることお許しください。

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※一定の配慮はしていますが性的な画像や表現が含まれるため、18歳未満&苦手な方の閲覧はご遠慮ください

※あくまで「私の観測範囲内での」考察なので、全体の流行と比べて多少のズレはあると思いますがご容赦を。*1

※タイトルは便宜上「広告を振り返る」としていますが、コンテンツの中身についても取り扱います。

※ここで言う「女性向け」は正確には「異性愛者の女性向け」、「男性向け」は「異性愛者の男性向け」ですが、記事中では略して表記します。また、TL=ティーンズラブ*2を指します。

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さて、2016〜2017年にかけては「エロのジェンダーレス化」が急速に進んだ、という話をしてきましたが、その意味では2018年はある種の「揺り戻し」が起こった年と言えるかもしれません(これを本当に揺り戻しと呼んでいいのか、については引き続き慎重な観測が必要ですが)。

2015年の僧侶ブーム、2016年の"オネエ"人気、2017年のK−POP系金髪男子、と来て、「そろそろ"いかにも雄々しい男子"も見たい!」という読者の欲望が爆発したように見えたのが2018年でした。

キーワードは体格差!「XLサイズ男子」ブームが到来

始まりはこの作品のヒットでした。

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彼氏いない歴3年のOLが、米国帰りのエリート後輩の教育係に…『長谷川くんのが大きくて入りません!?身長差40センチの絶倫彼氏』

2017年終盤から出始めていた広告なので、昨年の記事でも「インパクトが強い」「二度見させる威力がある」と言及していたのですが、この圧倒的インパクトが功を奏して(?)おそらく上半期最大のヒットに。頻繁に見かけるようになりました。

身長148cmの主人公と188cmの後輩、という体格差が売りの作品で、広告ではとにかく後輩男子の「大きさ」をアピール。「何事!?」と思わずタップさせてしまう、有無を言わせぬパワーがあります。

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このヒットを受けて類似作品も複数登場。動きが早いのがこの業界の面白い所ですね。

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▲友達の紹介でXLサイズのコンドームモニターになってしまった咲。上司に大量のゴムを見られて…『上司のア○コはXLサイズ!?~太い先っぽ…入ってる…!』

この一年で「XLサイズ男子」は一つのジャンルとしてすっかり確立され、めちゃコミックは「規格外サイズのイケメン」特集まで組んでいます。

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規格外な彼のアレで奥まで深く突かれる…おすすめTL漫画まとめ | 無料試し読みもできる漫画・電子書籍ストア - めちゃコミック

これまで、女性向けのエロ表現(特に商業漫画)で「男性が“大きい”ことの魅力」をここまであからさまに描写するものは少なかった印象があります。
私個人の印象ですが、一般論としても「男性は大きさを気にするけど、女性にとっては他の要素(思いやり・テクニックなど)の方がずっと大事」ということばかりが語られてきたように思います。勿論フィクションの世界とリアルは違うので、この一般論自体は不変でしょうが。

だからこそ、(あくまで一過性のトレンドであろうことを踏まえても)この作品群のインパクトは大きかった。

2016年の記事では、女性向けバナーのヒットの条件として

  • 男性の顔が確認できる(美形であることが分かる)
  • 男女の関係性(≒男の身元や素性)が分かる
  • 男性の「欲情」が台詞や表情で表現されている
  • 「性的に求められて、受け入れちゃっても仕方ない」シチュエーションであることが伝わる(エクスキューズ=言い訳が明示されている)

などを挙げましたが、これらのバナーにはエクスキューズの要素がほとんど無い。代わりに視覚的インパクトと「ネタ(面白)」要素が含まれている。

あまりにも即物的だったりネタ要素の強い広告は男性向けではウケても女性向けでは流行らない、というのが以前の私の考えでしたが、そんなことはなかったですね。

即物的でネタ要素強めの広告、といえばこんなものもありました。

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▲学校では「堅物の女教師」で通っている主人公は、実は夜な夜な保険医の先生を妄想のオカズにしていて…『今夜、保健室でぐちゃぐちゃに』

この作品も結構売れたはず。良い意味でバカバカしさとエロさが両立していて、思わずタップさせる力があるバナーです。バカバカしさとエロさの両立、というのも従来は男性向けのお家芸だった印象ですが、今や性別問わず通用する様子。

従来の「受け入れちゃっても仕方ない」方式ではなく、女性側の主体的な性欲がフィーチャーされ始めているのも注目したい所です。女性だって相手の肉体を求めるし妄想もするのだ、もうあれこれ言い訳しなくてもいいじゃん、という。

そして、上述の「XLサイズ男子」人気の流れを汲んで、下半期を見事にかっさらったのがこちらでした。

大柄男子の代表格!?2018年の最強属性は「消防士」

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▲幼馴染はチャラい消防士。ある日、マンションが火事に遭って彼の部屋に泊まることになり…『指先から本気の熱情~チャラ男消防士はまっすぐな目で私を抱いた~』

2018年最大のヒットだったんじゃないでしょうか(めちゃコミックの年間Hランキングでは1位)。上半期で醸成された「大柄男子」へのニーズを確実に掬いつつ、ネタ要素は薄めて、より万人に受け入れられるようアレンジを加えたような作品です。

流行に上手く乗った形で絵も非常に美麗、中身を読むとエロも濃い、とヒットの理由がよく分かります。

消防士には及びませんでしたが、「大柄男子」系ではこんなヒットもありました。
※運悪くこのバナーだけ手元にないので、Amazonリンクでご容赦ください

俺の上腕二頭筋、エッチな目で見てたでしょ? (Clair TL comics)

俺の上腕二頭筋、エッチな目で見てたでしょ? (Clair TL comics)

 

▲水泳教室に通う枯れたOL・杏奈は、イケメン先生・尊に助けられて以来、彼の腕の熱が忘れられず…『俺の上腕二頭筋、エッチな目で見てたでしょ?』

水泳スクールの先生の逞しい腕に惹かれて…というもの。やはりガッシリした男性の肉体的魅力が強調されています。

2016〜2017年にかけては「外見・内面共に“女らしく”ない主人公(ショートカット、ノーメイクなど)」が人気を博した、と昨年は書きましたが、これらの作品を見ても分かる通り、2018年は比較的フェミニンな外見の主人公が多めでした。ビジュアル面で「大柄男子」との対比を強め、際立たせることが優先されたのかもしれません。

 

「エロの男女両用化」の流れは継続中?

「女性にも受けるメンズコミック(昨年はこれを“男女両用型エロ/ハイブリッド型エロ”と呼びました)」が市場を席巻した2017年とは異なり、上述の通り、2018年はジャンルとしてはTLが一気に盛り返した年でした。

ですが、分類上はメンズ向けでありながら女性にも人気、という作品は今年も複数あったようです。

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▲実家の銭湯で背中流し職人を務める祖父の代役を任された学生・奏太は…『ア★コ洗い屋のお仕事~片想い中のアイツと女湯で~』

「体洗い屋になって同級生にやりたい放題!」というおバカ設定でありつつ、同級生ヒロインとのラブコメ要素が強めで、普段TLメインに読んでいる層にも受けた様子。
バナーでも「主人公とヒロインの関係性(ケンカするけど互いに満更でもない感じ)」が強調されています。

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▲男達がカラダを使って女性をもてなす「ちんパブ」の新人、直紀。初指名を受けた客はなんと幼馴染で!?『ちんパブ!~あの娘をイカせるのが俺のおシゴト~』

「ちんパブ」という強烈なネーミング&発想に目を奪われますが、こちらも幼馴染とのラブコメ要素あり(三角関係もありますが)。レビュー欄には「こんなお店があったらちょっと行ってみたいです」「実際あったら需要あるかも」など女性の高評価コメントが並んでいます。

やはり「男性キャラを魅力的に&好感が持てるように描くこと」「ヒロインとの関係性を重点的に描くこと」を押さえれば、メンズコミックの体裁を取りつつも両性からの支持が獲得できると言えそうです。

 

また、上記の文脈とはズレますが、意外とこちらも(メインのターゲット層は男性でありながら)女性向けに広告が出ていた印象。

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スーパー銭湯の広間で眠ってしまった私。目覚めると男たちに囲まれていて…『彼女が痴漢で果てるまで~声も出せずにイっちゃった…!~』

FANZA(旧DMM)の「性に関する統計調査」レポートでも示されていましたが、痴漢系コンテンツって実は女性人気が高いと言われてるんですよね(※勿論あくまでフィクション/性的ファンタジーとして、の話であって、現実で遭遇する痴漢は性被害&トラウマ以外の何者でもありません*3)。

恋愛要素が強い今のTLではなかなか出会えない設定なので、メンズコミックで需要を満たしている人が少なくないのかもしれません。

ただ、一昨年も少し書きましたが、こういった現実ならどう考えても犯罪にあたる設定の「広告」がほぼゾーニング無しでバンバン出ている状況はやはり良くないな、と思っています(作品自体は私も好きですが、それとこれとは話が別)。これに限った話ではなく業界全体の問題ですが。

 

さて、女性人気の高いメンズコミックがあれば、逆に「男性向け要素を強めに取り入れたTL」もあるわけで。

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▲就活で上京したあずみは、姉とその彼氏の同棲先に泊まることに。川の字で寝ていると、2人のHを目撃してしまい…『寝たふりしても、無駄だから~姉の彼氏が私を夜這う』

姉妹とその一方の彼氏が川の字で寝ていたら…というAVなどでは非常によく見る設定だと思いますが、それがTL作品に輸入されたような形ですね。

2016年に「姉の婚約者に執拗に狙われ、襲われて…」という設定のメンズコミックが女性にも受けていたのですが(一昨年の記事でも少し触れました)、その流れを汲んで出てきた作品のようにも見えます。

 

やはり「ずっと似た作品ばかりだと飽きる」「一定のサイクルで新しいものが見たい」という需要が特に強いのがエロの市場だと思うので、一定の揺り戻しは常にありつつも、男性向け/女性向けの垣根は徐々に曖昧になっていく方向にあるのではないかな、というのが個人的な見立てです。

 

TLの主役は今や「バリバリ働くアラサー」に

さて、昨年「TLの主人公は年々“大人”になっているのでは?」という仮説のもと、実際に人気作品のデータを見てみると「働く主人公(社会人)が増えている&平均年齢も2016年からぐっと上がっている」傾向が分かりました。※データが限られているのであくまで参考レベルです。

せっかくなので最新のデータも加えて見てみよう、ということでグラフをupdateしたのがこちら。めちゃコミックの年間人気ランキングをもとに、TLジャンルにおける直近5年間のTop15作品を抽出し、主人公の年齢層を確認*4しています。f:id:crop0422:20190109022053p:plain

なんと2018年はとうとうTop15の9割近くが社会人もの(残りは大学生もの)に!平均年齢*5もさらに上がり、26.4歳になりました。

「社会人/年齢不明(社会人なのは確かだが、年齢がはっきり判別できず)」とした4割の作品も、描写からは入社後数年経っている(=20代半ば〜アラサー)ように見えるものが多く、実質的には7~8割が「働くアラサーもの」と言っても過言ではない。

名称こそ「ティーンズラブ」ですが、もはやTLはティーンのものではなく、バリバリ働く大人世代が主な読者層になっているようです。

 

実際に各作品に目を通していても、主人公の働きぶりや仕事への想いが具体的に描かれている場面が非常に多かった。過去は「OL」で済まされることがほとんどだった主人公の職業や勤務先も、明確に設定されるケースが増えていると感じます(例:広告代理店・食品メーカー・銀行員・産業カウンセラーなど)。

さらに驚くことには、仕事を頑張る主人公が「女で総合職って…」「結婚できなかった余り物」と陰で笑われたり、部下を持って「女の上司やりづれーw」と陰口を叩かれる様子まで(!)リアルに描写されていたりする。それでもプライドを持って仕事に取り組む主人公の前に、その努力を認め、包み込んでくれる相手役が現れるのです。

上で取り上げた2018年最大の人気作(幼馴染の消防士モノ)でも、外出先で主人公がたまたま困っている上司に遭遇し、得意の英語で助ける場面が出てきます。それを見ていた幼馴染は「俺はお前がすっげー努力してるのを知ってる。そういう所がすげーなって思うんだ」と主人公への素直なリスペクトを語り、二人の距離はさらに近づく。

これはごく個人的な感想ですが、読んでいるうちに何だか泣きそうになってしまいました。 作品そのものよりも、その向こうに「ひたむきに働く毎日の中で、TLに一時の癒しを求める沢山の女性読者」の姿が見えるような気がしたからです。

みんな、きっと仕事が好きで、プライドを持っている。大変だけどやっぱり働きたい、と思っている。そして、それを素直に認めて尊重してくれるパートナーと支え合えたらなあ、とも思っている。同じ時代に働く女として、その気持ちが痛いほど分かる気がしてしまうのでした。

 

最後に

さて、簡易版と言いつつ何だかんだ長くなってしまったので、今年はこの辺で。

取り上げられなかった作品も書ききれなかったことも沢山ありますが、また来年にとっておきたいと思います。

今年は面白いバナーが多くてお気に入りを選ぶのが難しかったんですが、何となくクスッときてしまったものを最後に貼っておきます。

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レッツ、『セクササイズ』!!じゃないんだよな。

ありがとうございました、また来年。

 

*1:一応、配信される広告の傾向に大きな偏りが出ないよう、普段は極力広告を踏まない&作品も読まないようにしています。また、この記事を書くにあたり各配信サイトの公表しているランキングなども参照し、実際の売れ筋と大きな乖離が出ないようにはしています

*2:少女漫画的な絵柄と人物設定でありながら、具体的な性的表現が物語の中で展開される商業漫画。年齢制限はかからない

*3:この辺りの話は触れるかどうか自体迷ったんですが、「コンテンツを楽しんでいるからといって現実の犯罪を望んでいるわけでは全くない」ことを明記しておきたくて敢えて触れることにしました。もし意図せぬ誤解・誤読を招くようであれば消します

*4:一部、設定・台詞などからの推定を含みます

*5:作中から判断・推定できなかった「不明」分を除く