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テクノ法要@築地本願寺に行って、極楽浄土を垣間見た話

「あの『テクノ法要』が東京にやってくる」

そのニュースを聞いた時、これは何としても行かなければと思った。

今さら説明する必要もないとは思うが、テクノ法要というのは福井県・照恩寺の17代目住職である朝倉 行宣さんが生み出した「読経×テクノミュージック×プロジェクションマッピングを組み合わせた、全く新しい法要スタイル」だ。

以前Twitterでその様子を映した動画が拡散されているのを見て、「かっこいい…これは絶対に一度体験したい」と思っていた。


テクノ法要ダイジェスト 過去のテクノ法要の様子。朝倉住職自らのYouTubeチャンネル(!)にUPされている

 テクノ音楽×光 今どきの浄土築く 仕掛け人は照恩寺住職・朝倉行宣さん/福井https://mainichi.jp/articles/20170401/ddl/k18/040/235000c

斬新すぎ!テクノ法要がぶち壊す「固定観念」 DJ住職の思いとは?https://withnews.jp/article/f0170227005qq000000000000000G00110601qq000014781A

 ↑これらの記事によると、若い頃「DJ Gyosen」として活動しておりライブ照明などの仕事もしていた筋金入りの音楽好きである朝倉さんが、「若い世代にどうにかして仏教に興味を持ってもらおう」との想いで始めた取り組みだそうだ。

特に影響を受けたのはYMO、そしてPerfumeらしい。私もPerfumeが好きなのでこの時点でもう最高としか言いようがない。

 ――何かを参考にしたのでしょうか。

 東京や大阪までライブを見に行ったこともあるPerfumeも参考にしました。3人の人柄も素敵なのですが、何よりパフォーマンスの完成度の高さにはいつも目を奪われます。「Dream Land」という曲に至っては阿弥陀様の気持ちを歌っているようで、「テクノ法要」の目指すべきところだなとまで感じました。

上記withnewsの記事より引用)

 さすが住職の歌詞解釈は一味違う。

サビは「Dream Land Dream Land 夢の中 キミは偽りの世界で oh lose control lose control 負けないで ねぇ come again」…なるほど、この「come again」は輪廻転生を指しているような気もしてきた。

 

そのテクノ法要が、この度、東京・築地本願寺で開催されるという。

Twitterで「cropさんに行ってほしい」と告知をRTしてくれた方がいたので(ありがたい!)、次の瞬間にはGoogleカレンダーで予定を確保していた。

 

少し話は逸れるが、以前「みんなで木魚を叩く応援上映」に参加したことをきっかけに、現在私の手元には2つの木魚がある。一つはイベント用に急遽購入した安い木魚(半分おもちゃ)、もう一つは転職祝いに元同僚からプレゼントしてもらった本物の高級木魚だ。

これは久々の木魚チャンスか!?とも思ったが、浄土真宗はそもそも木魚を叩かないらしい(そういえば我が家も祖父母が浄土真宗だったが、確かに木魚は無かった)ので、残念ながら今回は出番無し。*1 

ちなみに本格的な木魚はやっぱり音の深みが違います。あと座布団がでかい。

 

そして迎えた法要当日、「ちょっと大事な予定が…」と早々に退社して築地へ直行。

東京に住んで12年、初めて訪れた築地本願寺はいわゆる「日本のお寺」のイメージからはほど遠い、不思議でゴージャスなインド様式の建物だった。こんなユニークな外観のお寺だなんて知らなかった。

中に入ると、なんと音に合わせて光る(色も変わる)リストバンドが配られていた。完全無料なのにサービス精神が凄まじい。これが慈悲の心か。

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「法友 ~For You~」の表記も気になりすぎる

ちょっと到着が遅れたこともあり、本堂の中はすでに超満員。前方のアリーナ席(?)はとうに埋まっていたので、最後方での立ち見になった。

 

そして、ついに生で体験できたテクノ法要は、思った以上に、カッコ良かった。私の撮影が酷すぎて全く伝わらないと思うのだが(もっと美しい動画を上げている方がTwitterなどに沢山いるはずなので見ていただきたい)、読経とテクノとプロジェクションマッピング、普通にめちゃくちゃ相性が良い。カッコいい。

そもそもお経というのは一見単調なリズムの繰り返しの中に少しずつ、少しずつ節回しなどの変化が加えられていくものだと思うが、それが完璧にテクノの特性とマッチしている。繰り返されるシンプルなフレーズの中に徐々にさざ波のように変化が現れ、いつの間にかそれが大きなうねりになり、気づけばクライマックスを迎えている。

どれくらいノッていいのか分からなかったので神妙に聴いていたが、許されるならもっと体を揺らしたいくらいだった。

(これも伝わりづらいと思うが)精巧な細工が施された高い天井にプロジェクションマッピングの光が反射しているのがとても綺麗で、神々しかった。ずっと天井を見上げていると、本当に現世と極楽の境目があやふやになって融合していくような気がした。

 一定のビートで刻まれ続けるお経とテクノミュージック、眼前に現れては消える光の文字、仏教モチーフが詰め込まれたきらびやかな映像。ずっと身を委ねているとふわふわ気持ちよくなってくる。

頭の中が静かになって、極楽浄土に近づいているのを感じる。そうか、これがDream Land……

 

とはいえ、お寺ということもあり音量はかなり控えめ。音が本当にカッコいいので「クラブみたいに爆音で聴きたいよ~!!」という気持ちになったが、高齢の方もいらっしゃるイベント(というか法要)なのでそれは難しいだろう。音源のmp3を配布してくれたら仕事中などにエンドレスで聴きたい。

 

ラストの曲(曲?)は最もメジャーな「正信偈」。母方の祖父母が熱心な浄土真宗だったので、私も小さい頃から田舎の実家に帰る度に朝・夕のお勤めに参加させられており、これだけは今でも暗唱できる。ちなみに唱えていて一番アガるのは「中夏~日域之・高・僧!!」の所ですが皆さんはいかがでしょうか。

スマホで動画を撮りながら、「あーこれ次帰った時じいちゃんとばあちゃんに絶対見せたいな~!」と思って、それから少しだけ淋しくなった。

あまりにも個人的な話になってしまうが、祖父は3年前、祖母は4年前に亡くなった。

二人とも大往生だったし年に1~2回の帰省でしか会っていなかったし、「いなくなった」ことの実感もあまり無かった。いや、色々忙しくて実感する余裕もなかったので「とりあえず遠くで生きている」ということにして、考えるのを後回しにしたままもう何年も経っていた。

けれど、「じいちゃんとばあちゃんが毎朝毎晩唱えていた、私たちにも教えてくれたあの正信偈が今テクノになっていてめちゃくちゃ面白い」という話を私はもう二人に伝えられないんだということを、この瞬間に初めて実感した。

ああ、もう「いない」んだな、と強く思った。

でも同時に、やっぱり「いる」んだな、とも思ったのだ。この光の中に…かどうかは分からないけど、きっとまさにこんな感じの、キラキラしててクールな極楽浄土に。

 

1時間ほどのセットリストが終わって、最後に朝倉住職からのお話があった。

映像に出てきた阿弥陀像の多くは築地本願寺阿弥陀像だそうで(ということは映像も毎回作り直している!?)、せっかくなので実際の阿弥陀像も見て帰ってくださいね、とセットを撤去してご本尊を見せてくれた。一面に金箔が張り巡らされていて、驚くほど眩い。

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「テクノ法要と言うと新しい試みのように感じられるかもしれませんが、きっと千年、二千年前の人も想いは同じだったと思います。
皆さんが今見ているこちらの本堂、果たして厳かでしょうか?冷静に見てください………ド派手じゃないですか?(会場・笑)
こういったものも、阿弥陀様のいる光の世界を、極楽浄土を感じたいという想いで金箔を張り巡らせたりして作られたはずです」
「今の時代は電気というものがあります。電気の力で極楽浄土を描いたらどうなるのか、という思いがありました」

「この築地本願寺を作った大谷光瑞という人は、『日本にあるお寺は中国様式ばかりだが、インド様式のお寺があってもいいのでは』という思いから仏跡を訪ね歩いたそうです。その当時『お寺とはこういうものなんだ』という固定観念があったけれども、そこに一つの見方を増やしたわけですね。変えたのではなく、増やしたんです」

「それと同じように、光の世界の表し方、見方を一つだけ増やしたのがこのテクノ法要なんです」

住職、あまりにも話が上手い……。思わず聞き入ってしまった(メモから書き起こしているのでニュアンスなどは一部違うかも)

その後に締めのご挨拶をされたお坊さん築地本願寺の住職の方かな…?お名前聞き取れずすみません)もやはりめちゃくちゃ喋りが上手かった。 

「昔、入籍した翌日に妻と電気グルーヴのライブに行ったんですが、知らない人ばかりなのに音楽が流れた瞬間周りの人たちとつながっているような、前から知っているような気がしたんです。
この感覚は……あ、大勢でお念仏を唱える時と同じだ!と。
どこから来たのか分からない人たちが一堂に会してお念仏を唱えると、そこにグルーヴ感が生まれるんですよね。テクノ法要の存在を知って、これは最高のマリアージュだなと思いました」

電気グルーヴのライブ・グルーヴ感・マリアージュ。法要の場とは思えないような単語がバンバン飛び出してくるし、それが完全に意図的。

お坊さん、話術のプロすぎる。敬服しました。

 

帰り際、門の所に立っていた若いお坊さんに「これ、動画とかってネットに上げてもいいんですか?」と一応確認したところ「大丈夫です!どんどん拡散しちゃってください!」と朗らかな笑顔を向けていただき、そんなわけで今この記事を書いている。

こうして私のように「仏教とか詳しくないけど面白いことには興味あるな~」くらいのミーハーな人間が一人でお寺に足を運んで、知らない人たちと一緒に極楽浄土に想いを馳せている。それだけで、この試みはきっと十二分に実を結んでいるんだろう。

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すっかり暗くなった中で見上げる築地本願寺のシルエットは、やっぱりユニークで、かわいくて、歴史があるのに新鮮だった。

また機会があればぜひ行きたいです。今度は福井に!

*1:とはいえ世の中何があるか分からないので念のため…(?)と一応マイ木魚をバッグに忍ばせて行ったことを告白します