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岡崎体育とCreepy NutsのMVに見る「あるあるネタを単なるdisにしない、音楽への深い愛情と覚悟」の話

岡崎体育さんの『MUSIC VIDEO』という曲のMVの出来が素晴らしすぎて、大変な話題になっているのはご存知の通りだ。

具体的にどこがどう優れていたのか、どこに特に工夫が凝らされていたのかについては、すでにこちらのブログにて完璧な分析・指摘がなされている。

arsm12sh.hatenablog.jp

岡崎体育さん本人がこう語っているように、上記のブログでこのMVの「凄さ」は語り尽くされているのだが、この記事中でも指摘されている

⑤MV制作の大変さが滲み出ている

この曲はMV制作者を馬鹿にしているのか。違う。断じて違う。これはMVへの愛の歌なのだ。様々な技法や演出方法を試したため、編集者曰く撮影時間は100時間超え。編集時間も含めるとどれほどの労力がかかっているのか、4分28秒に懸ける思いが凄まじいのである。

このポイント、特に「これはMVへの愛の歌なのだ」という部分について個人的にもう少し語りたいことがあるので書き残しておきたい。

 

さて、これがその神MVなのだが、

www.youtube.com

 お気付きの方も多いだろうが1:15時点で大変仲が良さそうでかわいらしい若い男性2人組が一瞬だけ映る。  

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 この左の長髪の男性は(今更言うまでもないが)テレビ番組「フリースタイルダンジョン」で急激に知名度を上げている現役最強フリースタイルMCことR-指定さんであり、

右の男性はその相方で天才童貞トラックメイカーの呼び声高いDJ松永さん、2人合わせてCreepy Nutsという人気急上昇中&今年さらに売れること間違い無しのヒップホップユニットである。

 

生まれ年を見ると岡崎体育さんが89年、DJ松永さんが90年、R-指定さんが91年ということで3人はほぼ同世代。

才能に溢れた若きアーティスト同士、親交を深めている様子がなんとも微笑ましいのだが、このゲスト出演しているCreepy Nutsにも最近ヒップホップ界隈で大きな話題を呼んだMV(というか曲)がある。 

www.youtube.com

 この「みんなちがって、みんないい。」は、見ての通りR-指定さんがその超絶技巧で1人12役(!)を華麗にこなして日本語ラップ界に“いかにも居そうな”MCたちを模倣してみせるという曲であり、

公開当時は「日本語ラップシーンを挑発する超問題作」と評されたり、「この曲でdisられてるのが誰か特定しようぜw」という議論がWeb上で交わされたりと話題をさらった。

ただしこの曲のキモは「単なる全方位dis」では終わらない所にあり、あらゆるスタイルのフロウ、そしてMC間のマウンティング地獄を巧みに再現しながらも最終的には

面倒くせぇ〜 マジどうだっていい

人は人 俺は俺 人の粗探しばかりしてる奴はダサい(俺か?)

くだらない みんな同じじゃつまらない

まぁまぁまぁまぁ要するに みんなちがって、みんないい

という流れで「みんなちがって、みんないい」を連呼し、「disではなくむしろ全方位リスペクトでは?」とも取れる表現に着地させている。

R-指定さん本人もラジオ出演の際に

(R-指定)いや、みんなわかるねん。わかるし、みんな大好きやし、尊敬もしてるし。でも、みんなこういうことを言い合っていて・・・俺もお前らみたいになりたかったけど、なられへんかったけど、でも、みんな大好き!みんなちがって、みんないい。みたいな(笑)。

と語っており、この曲はタイトル通り「みんなちがって、みんないい(だからむやみに叩き合うのはやめようぜ)」というある種の“人間賛歌”として作られているようにも思える。

とはいえ「いやここはちょっと悪意あるだろw」という表現もあったりするのでこの曲の真意が果たしてdisなのか?リスペクトなのか?は人によって大きく意見が分かれており、真実はR-指定さんのみぞ知る…という所なのだが、

Creepy Nutsのライブに何度も足を運んでこの曲がプレイされるのを実際に見た上での個人的な印象としては「やっぱりこれは彼らなりの最上級の人間賛歌だ!」という所に落ち着く。

みんなちがってみんないい、だからむやみに叩き合うのはやめようぜ、でもそんな風に叩き合っちゃうお前らもこんな曲作っちゃう俺らもこのカルチャーもこの世界も結局のところ大好きだ、大好きだけどまあクソな部分はあるよな、でもクソな所も含めてやっぱ愛してるぜ、だからとにかく皆好きにやろうぜ!

…という、現状のダメな部分もつまらない部分もメタ視点で全て把握した上で、敢えてまるっと包み込む全肯定。

ただ俯瞰してるだけじゃなく自分もそんな世界の一員なのだ、そしてこれからもどっぷりこの世界でやっていくのだという深い愛情と覚悟。

そういったものをCreepy Nutsの熱量溢れるパフォーマンスからはひしひしと感じるのである。

 

そして、この「メタ目線をがっつり持ちつつも単なる俯瞰やdisでは決して終わらない、業界全体に対する深い愛情とコミットメント」を、今回の「MUSIC VIDEO」MVを観た際にも感じたのだ。

「全てのMV製作者を敵に回しそうなMV」「MVの『あるある』をdisりまくるMV」などの刺激的な謳い文句と共に各所で紹介されたが(それこそがあのMVの狙いだろうから問題ないのだが)、岡崎体育さん本人はあくまで

と言明しているし、冒頭で紹介したブログへの言及ツイートからも分かるように、「MVへの愛」を見抜いてもらえたことを非常に喜んでいる。

とにかくこのMV本編と発表前後の岡崎体育さん自身の言葉から伝わってくるのは、

こんなMVって巷にいっぱいあるよな、なんか皆似たような感じになっちゃってるの笑えるよな、でも皆自分たちの曲を知ってほしくて限られた予算で一生懸命MV作ってんだよな、分かるよ俺もそうだよ、とにかく知ってほしくて売れたくて1億人に届けたくてこんなMV作ってるよ、これからもバンバン作るよ、だからこれからもよろしくな音楽業界。

…という、やはり「現状を完璧にメタ把握した上でまるっと包み込む全肯定」なのである。

 

お笑い界において「有名人のモノマネ芸は一見disのようだが、対象をひたすら観察し続けてそのエッセンスに迫ろうとする愛とリスペクトがないと絶対にできない」と言われることがあるが(お笑いにおいてこれが100%正しいかはさておき)、今回の岡崎体育さんやCreepy NutsのMVはまさにそれである。

業界内部にいる人間として、その業界を誰より愛しているからこそ分かる現状のつまらなさやマンネリズムを華麗に暴いてみせた上で、そんなダメさも含めて全肯定して「みんなちがってみんないい」んだ、と世界への愛を歌う。

その客観性とバランス感覚、「それ言ってるお前はどうなんだよw」と言われることを恐れない勇気と矜持、そして何より音楽というエンタメへの愛情。

そして、ひょっとしたら(これはもう完全に個人的な推測というか希望になってしまうのだが)「自分にはアーティストとして強烈なキャラクターやぶっ飛んだカリスマ性があるわけじゃない、けどその分この客観性と器用さで戦えるんじゃないか」という想いで深く繋がっているのかもしれないこの2組(1人と1組?)。

 

業界をひっくり返すような愛情溢れる「問題作」を、どうかこれからも投下し続けてほしいなあと、一ファンとして願っている。