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2017年の女性向けスマホ漫画広告を振り返る(前篇)

眠るあの子にハメてみた。?入れてもイっても起きないんだもんっ!(3) (むっちりプルコミ)

新年もとうに明けてしまいました…。本年もよろしくお願いいたします。

というわけで昨年(前篇 後篇)に引き続き、2017年もスマホに出てきたエロバナーを撮り貯め続けて800枚ほど貯まったので、ざっと振り返っておこうかと思います。

あらかじめお詫びなのですが、昨年5月の海外出張中にスマホを紛失するという痛恨のミスを犯してしまったため(1〜5月途中までの消えたスクショのことを思ってサンフランシスコのホテルで一人シクシク泣きました)、年初数ヶ月分のバナーについては記録が残っていない部分があります。すみません。皆さまもデータのバックアップにはくれぐれもお気をつけて…。

 

※配慮はしていますが性的な画像や表現が含まれるため、15歳未満&苦手な方の閲覧はご遠慮ください。

※あくまで「私の観測範囲内での」考察なので、全体の流行と比べて多少のズレはあると思いますがご容赦を。*1

※タイトルは便宜上「広告を振り返る」としていますが、コンテンツの中身についても一部取り扱います。

※ここで言う「女性向け」は厳密には「異性愛者の女性向け」、「男性向け」は「異性愛者の男性向け」ですが、記事中では略して表記します。またBL=ボーイズラブ、TL=ティーンズラブ*2、GL=ガールズラブを指します。

 

2017年のポイントとしては

  • 「男女両用型エロ」が市場を席巻
  • 「BLとしても楽しめるTL」の台頭
  • 看守やフランス人上司など新たな萌え属性
  • 検証:TLの主人公はどんどん"大人"になっている?

…という辺りになるかと思います。今回も前後篇になりますがお付き合いください。

ついに現れた「男女両用型エロ」の最終兵器

メンズコミックなのに女性にも大ヒット

2017年に関してはもう上半期とか下半期とか分けて語る気はありません、なぜなら一年を通してこの作品が世を席巻していたのは明らかだからです。

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一度寝たら起きない幼馴染の女子にいたずらし始めたらどんどん止まらなくなって…!?という設定の『眠るあの子にハメてみた。』です。

「あれ、これ男性向けじゃないの?」とお思いの方、その通りです。配信サイト上での分類は「メンズコミック」、つまり定義としては男性向けのエロなんです。TLじゃない。

…んですが、女性にもめちゃくちゃ読まれたはず。なぜなら死ぬほど広告が出てた(計800枚のスクショ中、なんと140枚超がこれでした)から。

念のためTwitterでもアンケートを取ってみました。

もちろんTwitter経由でのアンケートなのであくまで参考程度ではありますが、実に48%が「頻繁に見た」、26%が「見たことはある」との回答。(ご協力いただいた方ありがとうございました!)

このアンケートの回答者は、Twitterのユーザー属性も鑑みると「ネットやSNSを積極的に使っている10~30代の女性」が主と考えられ、まさにこの手のバナーのターゲットど真ん中な訳ですが、ターゲット層の約8割にしっかり認知されるほどリーチするバナー広告って(商材を問わず)なかなか無いです。驚くべき数値。

昨年も書きましたが、Web広告は「消費者のニーズを反映してリアルタイムでどんどん最適化していく」ものなので、広告が当たるってことはその層に売れてるってことなんですよね。かなりの数の女性がこの広告をクリックし、作品にも触れたと思われる。

 

2016年から兆候が見えていた「エロのジェンダーレス化」

昨年、「エロのジェンダーレス化」「"男女どちらでも読めるエロ"の台頭」という流れに触れた上で、以下のような文章で記事を締めたかと思います。

ひょっとしたら数年後には、「男性向け」「女性向け」なんてカテゴライズそのものが無意味になっているのかもしれません。そんな未来も楽しみですね。

正直、この流れが思ったよりも早く、しかも物凄い勢いでやってきたような気がします。

改めて振り返ってみると、2016年終盤〜2017年前半にかけてこちらの作品の広告をそこそこ目にしました。※ちょうどデータを紛失した時期なので良いバナーが残っておらず…表紙画像でお許しください

ノラネコ少女との暮らしかた(1) (KATTS)

独身男性が無口な家出少女を拾ったら…という設定のもので、こちらも分類はメンズコミック。ですが、少女漫画のような繊細な絵柄と嫌味のないヒロイン、誠実そうな主人公のキャラクターで女性にも支持を得たようで、女性向けにも結構PRされていました。

2016年から目立ち始めていた「女性も楽しめるメンズコミック」の流れを継いでいたように見えます。

そしてその大きなトレンドを追い風として彗星のように現れ、あらゆるバナー枠をかっさらったのが『眠るあの子に〜』だったのです。

 

男性向け〜TL・BL・GL要素まで取り込んだ意欲作 

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▲男主人公・叶多(かなた)に思いっきりフォーカスしたバナー

この作品は凄いです。今回記事を書くにあたって内容も確認しましたが、相当凄い。「性別を超えて、出来る限り多くの人が楽しめるエロ」を追求したとしか思えない。

まず↑のバナーを見ていただけば一目瞭然かと思いますが、主人公にあたる男子のあまりにも今時なスタイルとキャラクター(金髪マッシュでK-pop風、気だるげだけど性欲は旺盛)が、一目で女性の心を掴む。レビューにも「男性向けかと思ったけど、男の子がドストライクだったので読んでしまいました!」という女性の高評価が飛び交っています。

実際に中身も見てみると、男子の裸体や服の脱ぎ方に力の入った描写が多く、女性目線でのフェティシズムを満たそうという思いが感じられます。

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▲広告でも「ネクタイを緩める仕草」がやたらと推されている

しかも主人公→ヒロインへの真剣な想い(一途さ)も、広告&作品内の両方で執拗なほどに描写されます。これも前回書きましたが、「男性の"欲情"が台詞や表情で表現されている」のは女性向けにおける超重要ポイント。

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メンズコミックの体裁をとっている以上モノローグや心理描写は男性視点が主になるので、女性視点で進むTLコミックほどの没入感は(女性読者にとっては)得られなくなってしまうわけですが、その分「ヒーローがヒロインをいかに大好きか、いかにその仕草を愛しく感じて欲情しているか」をより丹念に描けるわけです。男性側の没入感を損ねることなく、女性側の「こんな素敵な男子にこんな風に想われてみたい」という願望も満たしている。

 

そして、昨年もう一つ大きなテーマとして触れた「"女らしさ"からの解放願望→"BLっぽいTL"が人気」という流れも、この作品は見事に汲んでいます。

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ヒロインである愛実は、2016年大ヒットしたTL『漫画家とヤクザ』の主人公・累と同様、「身なりに全く構わない、女らしくない女子」として終始描かれています。メンズコミックのヒロインとしてもTLの主人公としてもかなり珍しいベリーショートの髪型がその象徴。

男性の前でもすやすや寝てしまう&ノーブラで出かけてしまうくらい無防備(=自分の女性性を意識していない)、というキャラクターもその表れです。胸も小さい(作品内でも度々言及されている)。

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パッと広告だけを目にすると、これも『漫画家とヤクザ』同様、第一印象はBLっぽくも見えますね。

作者・jyom先生のプロフィールはあまり公開されていないのですが、BL二次創作出身の方だという情報を目にして、やはり…と思いました。(もしご本人が公開を望まない、もしくは虚偽の情報である場合は大変お手数ですがご一報ください)

 

そして、この「なかなか起きない幼馴染に手を出しちゃう」というシチュエーションも上手い。

昨年の記事で↓のように書きましたが、

女性向けでは「受け入れちゃっても仕方ない」状況作りが重視される一方、男性向けはもっと直接的に「挿入しちゃっても怒られない(拒絶されない・罰せられない)」ことが重要。

女性向け・男性向けのエクスキューズを、この設定一つで同時に満たしている。女性視点では「無抵抗で受け入れちゃうけど眠ってるんだから仕方ない」し、男性視点では「相手は寝てるんだから挿入しちゃっても怒られない」わけです。背景としてはこの二人は元々お互いを憎からず思っており、だからこそ成立するシチュエーションなわけですが(もちろん現実だったら普通にダメです)。

なお、そもそもなぜ女性向けでは「受け入れちゃっても仕方ない」という受け身型のエクスキューズが必要になるのか、という点については、後篇でもう少し触れたいと思います。

 

…とこのように、どこを取っても良くできている作品なのですが、これだけでは終わりません。

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ヒロイン・愛実のことが大好きな同級生女子がいて、GL展開まであるのです!

ヒロインの外見上の"女らしくなさ"を補うかのように、この同級生は分かりやすく美人・巨乳でスタイル抜群(ヒロインだけではエロさが足りないと感じる男性読者向けの配慮もありそう)。ヒロインを巡って男主人公とライバル関係にあり、真っ向から対立する描写もあります。

 

男性向け/女性向け両方の文法を取り入れた上に、ボーイッシュなヒロインを登場させることで見た目上のBLっぽさをトッピングし、さらにGL要素まで盛り込んでくる貪欲さ。要は「全部盛り」なわけです。

上に「男女両用型エロ」と書きましたが、もはや「全方位対応型エロ」を目指しているのではないかという勢いです。最先端のハイブリッド型エロコンテンツと言えるでしょう。

 

今後も「全方位型コンテンツ」は増えていく?

そもそも、Web広告はユーザーをある程度ターゲティングできるとはいえ、まだその精度が著しく高いわけではないんですよね。(もちろんテクノロジーは日々進歩していますが)男性ユーザーを女性と推定して広告を出してしまうことも普通にあるし、逆も然り。

だから、本来なら広告もコンテンツも「性別を問わず(もっと言えば年齢層も問わず)刺さるもの」を作れた方が絶対に効率がいいわけです。広告の「無駄打ち」が減るし、マーケットも広がる。

とはいえやはり男女間では嗜好も大きく違うからな〜ということで(ある意味仕方なく)使い分けてやってきたのがこれまでなのかなと思いますが、こんな風に「性別問わず刺さるエロ」が作れるのなら、この方が作り手&広告配信側にとっては望ましいはず。

 

これは完全に妄想の域ですが、大手漫画配信サイトの中でも「めちゃコミック」はこの流れを早くから予想し、積極的に牽引しているのではないかと見ています。

他の大手サイト(まんが王国・コミックシーモアなど)が女性向けの「TL・BL」と男性向けの「オトナ(=ここで言うメンズコミック)」ジャンルをぱっきり分けている中で、めちゃコミも勿論それらの区分は作っているんですが、より広い「おとな向けコミック(=TL・BL・メンズコミックを全て含む)」という独自の括りを持っている。

さらに、定期的に「Hコミックランキング」という形で、TL&メンズ作品を両方含む総合ランキングを(個別のものとは別に)発表しています。ジャンルを問わず自分に刺さるエロであれば読みたい、という需要をちゃんと読んでいる。男女ともに多くのユーザーを抱えるゆえに、「男性向けでも内容次第では女性にも受ける」ということがデータでよく分かっているんじゃないかと思います。

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ちなみに、昨年のめちゃコミHコミック年間ランキングは、当然『眠るあの子に〜』が1位。めちゃコミはこの作品の独占先行配信権もしっかり押さえており、笑いが止まらないといった所かもしれません。

 

男女両用型エロの必須条件とは

さて、上で触れた2作を見るに、メンズコミックの体裁(男性視点で進む&エロ描写も濃いめ)をとりながら女性支持も獲得するためには、少なくとも

  1. 男性キャラを魅力的に(=女性目線のフェティシズムを理解して)描ける描き手を選ぶ
  2. 無意味にハーレム展開にしない。ヒーローの"一途さ"を強調する
  3. ヒロインの女らしさや客観的な美貌は極力強調しない

といった条件を満たすことが必要なように見えます。これらの条件を満たした作品が2018年にどれだけ現れてくるのか、もしくは全く異なるトレンドが大外からやってくるのか。引き続き注目していきたい所です。

 

…と今回も長くなってきてしまったので(ほぼ一作品しか触れられなかった!すみません!)、続きはまた後篇で。

*1:一応、配信される広告の傾向に大きな偏りが出ないよう、普段は極力広告を踏まない&作品も読まないようにしています。また、この記事を書くにあたり各配信サイトの公表しているランキングなども参照し、実際の売れ筋と大きな乖離が出ないようにはしています

*2:少女漫画的な絵柄と人物設定でありながら、具体的な性的表現が物語の中で展開される商業漫画。年齢制限はかからない